昨日のお話とは逆なんですけど、わたしの下の叔父は東京から嫁をめとりました。ふたりは留学先のモスクワで出会うて、そのまま互いを伴侶にしたんですけど、驚いたんは嫁の父親です。モスクワから帰ってきたら直ぐに、縁もゆかりもない京都へ嫁ぐことになったんですから。「一体どうゆうことだあ!」って血相かえて京都に乗り込んできはったそうです。
叔父の父親、つまりわたしの祖父はお父上をお迎えすると、ご挨拶もそこそこに祇園町のお座敷へお連れしたそうです。ひととおりの口上を終えると、「ほな、歓迎の舞を..」ったら言い出して、扇子を片手にとうとうと舞をやらかしたんです。これには生真面目でちょっと頑固な江戸っ子のお父上、えらい面食らってしまわはって、すっかり気勢をそがれはったて聞いてます。
似たようなお話はたんとありまして、祖母方の実家では法事になると、親族皆で火鉢を囲みながら、故人を偲んで和歌を詠まはるのが常で、やっぱり、遠方からのお客様をびっくりさせたはったみたいです。
本人たちは全然悪気はのうて、ことさらに風流心をきどってた訳やあらへんのです。テレビも無かったむかしのこと、今以上に文化風習のちがいは大きかったんやとおもいます。ゆうたら、京都がまだ外の世間を知ってへん、純粋に京都らしい最後やったんかもしれまへんなぁ。
そんな祖父も晩年はテレビで「銭形平次」たら「大岡越前」たら、そら一生懸命見たはりましたわ。ちょっとはお江戸を学ばはったことでしょう。
嫁いできた叔母は今も元気で京都に住んでます。もうあれから、五十年近くになるんやろうけど、いまでもしっかり東京弁をしゃべったはりますわ。あづまも京もあれへん、おなごはんがいちばん強おす。